落雷 2025/11/26㈬

 激しい雨音に心が安らいだ。窓を揺らす強烈な光と地響きにこの世の終わりを感じて、私はほっと一息つく。寝る前に珈琲を飲んだからじゃない。私は、私に集中することが出来て嬉しかった。でたらめな結び方をした布団の中で体を畳む。

 枕の位置に私は細かい。布団がどれだけ滅茶苦茶でもどうでもいいのに、これだけは譲れなかった。それすらもどうでも良くなったのは、どうやっても眠れなくなったのはいつからだろう。何がきっかけだろう。

 雨音が弱くなる。

 やめてくれ。止まらないで。耳に打ち付け続けてほしい。ずっと暗いままでいてほしい。

 心のざわめきは、雨脚が弱くなるほど私の中で振れ幅が大きくなる。

 雷が鳴った。

 体だけが大きくなって、私はまだ自分の汚い城から出ることが出来ない。この埃とカビに塗れた小さな領地が、居心地よくて疎ましい。しかし、この家がなくなってしまったら、私は一体どこに行けばいいのだろう。

「どこにでも行ける」

 そんなありきたりな歌詞に騙されない。騙されたいのに、私の中の私が囁くのだ。夢を見るなと、お前には無理だと、そんな自分を忘れるために枕の位置を変える。

 雨がまた降り始める。このままでいい。このままでいいのか。

 皆どこにいったのだろう。何があんなに好きだったのだろう。なにに夢中になれたのだろう。

 考えてももう、あの時のように夢は見れなくなった。見たくない。多くの人が向かう道から、私は段々と逸れている気がした。

 戻る道はどっちだ。私は何故その道に行けそうだったのに、止めてしまったのだろう。

 雨が窓を打ち付ける。賛歌のように。

 ドンドン、ドンドンと。

 鼓動のようになっている。私は、重くなってく瞼を閉じ、ようやく意識を手放した。

 時刻は朝の四時である。

 


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