生簀話

2024.6.9(日)~2024.6.15(土)

【健康困惑優良児】

 突然の喉の痛み、唐突なふくらはぎの引きつり。これは尋常ではなかった。私は何かに脅かされている。だが、病気ではないのは確かだった。何故かと言えば、私は健康優良児として通っているから、以外の理由はない。しかし、最近おかしなものも見えてきたのは、本当に大丈夫だろうか。

 「あんた大丈夫なの」「おい山道、顔色が真っ青だ」。周囲から労いの声がかけられたが、私は頬が緩むことはなかった。「みんな優しいな。こういう時だけ」。足元に居る、小さな何かが私の足元をうろちょろしているからだ。変化があってから、ずっと。永遠に続くのかと思うと、さらに胃が痛くなった。

 「うん。大丈夫」「なあにが『大丈夫』、だ。本当は違うんだろ」。足元をうろつく小人の語尾は潰れてしまう。私がそれ、得体の知れない私にしか見えないし聞こえない厄介者を足で挟んでしまったからだ。「なにするんだよっ」

 ごちゃごちゃ言っては来るが、私は反応できない。ひきつった笑顔を維持するので精いっぱいだからだ。「山道ぃ、本当に今日掃除当番変われるの? 私と」。友人の、友人らしからぬ発言にすら私の心は遅れる。

 ある時から、私の周りを彷徨く私にしか見えない小人が増えた。勝手に喋り、勝手に動き、私の心を惑わせる。今日は結局友人と掃除当番をわ変わった。「ちくしょー」。小人は掃除用具入れを蹴飛ばす。

 黒板消しを二つ持って屋上へと進んだ。夕焼けが橙色に煌めき、私は何故か虚しくなる。変な小人が見えるんだよ、と言える人など私の側にはいない。友人はさっさと帰ったし、彼女にはどうしても外せない用事があったのだろう。

 黒板消しを互いに叩きあう。白い粉が風にさらわれ、すぐに見えなくなった。日の入りはまだまだ先のようで、すぐだろう。黒い制服に粉がつく。小人はじっと私を見ていた。私は笑う。何故だかは知らない。

 小人が見えるようになったのには、きっかけらしいものはないが、心当たりはある。あの時の謎の苦しみ。成長痛のようなあれだ。ああ、でもたわいもないことかもしれない。疲れが出たのだと親は言ったが、どうなのだろう。

 踞る私に、小人はなにも言わず手を添える。

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